生命科学楽しみ隊

生命の持つ不思議や神秘に魅了されております。ここでは生きた証として残しておきたい知識を記しています。

生物(バイオ)系大学院生の研究室生活を紹介してみる

 

 

4年生から修士1年(M1) の段差が高い

4年生から卒業研究のため配属される研究室。私の配属された研究室はそこそこ大きな組織で、教授を含め先生は4人いました。

その一人の先生が「4年生はお客さん」と言っていました。

 

私は卒業研究後そのまま大学院に進学したので、お客さんではなくなりました。

お客さんの卒業研究をサポートする仕事人に昇格するしたのです。

これは、ただ給料が発生しないだけでほぼ社会人でした。

 

では具体的に修士になりどれだけの仕事が増えたのでしょうか。

まずセミナーは聴衆から発表者に変わり、全ての実験を自分で一貫して管理するようになりました。

また、後輩への手技の指導や研究テーマの進め方を指導、発表スライドの添削などを行い、学部生の授業の一つである「実習」を任されます。

これは、各実習ごとに200人近くいる学部生のためのサンプルの作製や実験器具の設置を含む実習準備・片付け、実験の補助、課題の添削、出欠確認などの全ての仕事を担うかたちになります(もちろんチームですが)。

自分の時間以外にも割く時間が増え、スケジュール管理が苦手な人にとっては過酷な環境かもしれないと思いました。

 

下記に目安となるよう修士の主な仕事にかかる負担と時間を書いてみました。

 

文献紹介(セミナー)

半年に一回、インパクトファクターの高いサイエンス系の雑誌(Nature, Cell, Science など)から一つわりと新しめの論文(レビューなど短いものは基本NG)を選び、発表していました。

 

発表時間は、質疑応答を含めだいたい1時間ほど。

しかし文献紹介が大変なのは発表自体ではなく、その準備です。

多いもので20ページほどある全文英語の論文を一本読むのに私は最低でも2週間かかっていました(他の作業の合間で読むため)。

実際、グーグル翻訳に丸投げして和訳を読めばなんとなく内容が理解できるので数日あれば読めますが、翻訳が間違っていることも多々あるので自分で原文に目を通すことは大事でした。

 

内容を理解しFigの説明が出来るように自分でまとめ、さらに実験方法や著者の考察、サプリメンタリーのデータがあればそれにも目を通します。

読みながら自分が疑問に思ったところや、質問がきそうなところを別の文献や図書を読みながら対策をしていき、内容がある程度まとまったら発表用にパワポを作成していきます。

 

一つ一つのFigとその説明、話の流れがわかるように小活や簡単な実験操作を入れていきます。

最後に原稿などを打ち込み発表練習。時間をオーバーしないように細かく調整、というかんじで真面目に発表の準備をしていると一ヶ月くらいかかるので、自分の発表の一ヶ月くらい前から実験のスケジュールに余裕をもち発表準備に時間を割いていました。

 

weekly meeting

私がいた研究室では、自分の研究進度を3週間に1回教授に報告する時間がありました。

全体セミナーとは違い小規模で、修士以上の数名で各グループごとに行っていました。

(これだけでどこの研究室か特定されそう)

 

しかし、3週間毎にデータがほいほい出る訳ではないので、ほとんどが今やっていることと、これからの予定を報告する場となっていました。

また、結果が良くない場合にはその原因を説明し、他の人からアドバイスをもらう場ともなっていました。

 

自分が直近に行ったデータをかるくまとめ発表するだけなので、準備は1日あれば十分ですが、一人一人の発表が長くなるためミーティング自体は長くて3時間弱。

座っている方がきつかったです。

 

研究紹介(セミナー)

半年に一回、全体セミナーで自分の研究報告を行っていました。

weekly meeting でまとめたデータをかき集め発表するので準備はそこまで大変ではありません。

発表自体も質疑応答含め30分ほどなのでそこまで大変ではないですが、大変なのは自分の研究が如何に意味あるものかを人に伝えることでした。

 

中には「それやる意味あるの?」などの辛辣な言葉を飛ばしてくる人もいましたし、うまくいっていないものでも、方法を変えたり対処法を説明しつつ「意味がある」ことを強調して発表していくのは私には難しかったです。

 

自分で実験を管理

4年生のときは、先輩にもらったサンプルを少し処理して終わり、という感じでほぼ先輩のアシスタント状態でした。

しかし修士になると、自分の行う実験の管理者は全て自分になります。

サンプルの作製から結果の解析まで、その中で後輩にやってもらう実験、自分で行う実験、など割り振りをするが後輩の実験も責任者は自分になるのです。

 

後輩指導

初めて研究というものに携わる4年生は、知識が0です。

そのため、実験の手技以外にも、〜を知るための実験には〜がある、基本的な試薬調整方法、データの読み解き方、解析方法、などと基礎知識をすべて教え込む必要があります。

 

ミスをするのは誰にでもあるので仕方ないが、それが異常なときもあり驚かされることもあったりなかったり。

そして、発表スライドの添削は大変です。

他の4年生にも分かるように、テーマの目的や背景、実験操作、結果の意味などを10分ほどの発表にまとめるのは本当に難しいです。

自分もやっていたことなのに、それを教えるのはそれより難しかったです。

なぜか?自分でスライドを作れないからです。

作るのと作り方を教えるのでは全然違いました。

 

なぜか年度末に後輩指導料みたいなお小遣いがもらえました。

 

TA (teaching assistant)による学生実習の実施

学生実習の準備は意外と大変です。

実習日とその前日は基本的に自分の時間はありません。

例えば各班に細胞を用意すると言っても、200人分の細胞を4人くらいで準備し、200人分の試薬、器具も4人で準備します。

実習が始まれば出欠確認、実験の説明、補助を行い事故が起こらないかにも目を配り、終了時には器具を倉庫へ戻したりなんやかんやで疲れます。

しかしTAは働いた分だけ給料が発生するのでしっかりやらないとですね。

 

一つの実験の時間が長い

生物系の実験は、ものにもよりますがだいたい一つ一つの結果が出るまでが長い気がします。

そのため、ミスをするとショックが大きいです。

多くの実験を経験させてもらいましたが、私が主に行っていた実験にかかる日数などを下記に紹介します。

 

エスタンブロット(電気泳動メンブレンを用いたタンパク質の検出)

3日かかります。

一日目、細胞を播種し一晩培養

二日目、細胞を回収しサンプルを調整、電気泳動メンブレンへ転写→一次抗体をつけ一晩反応

三日目、二次抗体→発色液→検出→解析

電気泳動や転写、抗体を反応させている時間が空き時間となり、自分の勉強や後輩指導を行っていました。

 

フローサイトメトリー(生細胞上でタンパク質を検出)

2日かかります。

一日目、細胞を播種し一晩培養

二日目、細胞を回収しサンプル調整、抗体標識→フローサイトメーターで蛍光を検出→解析。

二日目はほとんど空き時間はなく半日使うことになっていました。

 

細胞染色(顕微鏡で細胞像やタンパク質の発現を観察)

4日かかります。

一日目、細胞を播種し一晩培養。

二日目、細胞をセルディスクに播き直し、一次抗体を反応させ一晩放置

三日目、二次抗体を反応させ、セルディスクをスライドガラスに固定

四日目、顕微鏡で観察、撮影

意外と顕微鏡での撮影に時間がかかります。

また、色の調整などを行うためさらに時間がかかります。

そのため目が疲れました。

 

タンパク精製(大腸菌からタンパク質を発現させ精製する)

5日かかります。

これはもうただの重労働です。

(コンストや形質転換サンプルがある前提。ない場合はさらに一週間かかると考えてほしい。)

一日目、菌を小スケールで一晩培養

二日目、スケールアップ培養→タンパク質発現誘導→菌体回収(凍結保存)

三日目、溶菌しタンパク質を菌体から取り出す。タンパク質のタグの部分をビーズにくっつけ他の溶液を洗い流す。タンパク質をビーズから溶出。一晩透析にかける。

(この日は夜まで丸一日かかる)

四日目、サンプル調整をし電気泳動、CBB染色により濃度を定量

五日目、精製したタンパク質の活性測定

 

何も問題なく終われば良いが、濃度が薄かったり活性がなかった場合にはやり直しです。

繰り返し行う実験の中で一番きつかった記憶です。

全自動で精製できればいいのにと思っていました。

 

細胞・実験動物のお世話

実験が細胞レベルなので、細胞を培養していましたが、増えすぎたりしないように定期的に継代したりメディウムを交換する必要があります。

予期せぬコンタミにより細胞が死んでしまうと、実験スケジュールが狂うので気をつけるべし。

月曜から実験を進めたい場合には日曜日に準備をしにいくこともありました(闇深)。

動物実験をしている人は、動物の世話や管理もしなければいけません。

 

上手くやりすごす方法と注意点

上記の生活を真面目に続けていると多分人は壊れていきます(知らんけどw)。

私が倒れたのはこのラボ蓄の沼にはまり、結果を求めすぎて周りの声に押しつぶされ、自分のペースを乱したからだと思うのです(倒れた話はそのうち)。

 

しかし楽しかったことも多々あったのは事実。

M1になった当初は仕事量の多さに疲れていましたが、それはだんだん慣れていきました。

そして、研究室生活で一番大事だったのはさぼること。

とても声を大にしては言えませんねえ。

 

やることをやらずに毎日さぼっていては信用を失うだけだと思いますが、しっかりやることをやり、周りに「真面目」という印象を与えられればさぼることは意外と簡単です。

あと、嘘はついてはいけない気がしますね。

 

その日の実験を早めに終わらせミュージカルを観に行ったときは、ミュージカルを観に行くとは言わず、用事があるので早退しますと言っただけで、特に何も言われませんでした。

 

年度末のセミナーがあるにも関わらずこの日から冬休みに入りますと言ったこともありますが、なにも言われませんでした(全体ダメなんですけどねw)

 

単位の一つであり、年度末のセミナー(その後納会)を私用で欠席なんて普通は許されないです。ちゃんと出席しないさいと言われるところだがなぜか誰も疑いなく私の欠席を受け入れてくれました。

それ以外にも、「私用で休みます。用事があるので遅れます。早退します。」など、欠席理由を言わないことが多かったですが一度もとがめられたことはありません。

 

「家の用事で、病院に行くので」など嘘の理由付けは設定を忘れてしまうと何か言われた時に対処できないので言わないことが大事かなと。

セミナーをさぼり海外に行った時は、おみやげをみんなに渡し「海外に行くためセミナーをさぼった」ことを明かしたが、おこられませんでした。

 

私のさぼりが受け入れられていたのは、

たぶん、私が日々「真面目」に生活していたからだと思います。

それに加え、先生たちは私を追い込んだ負い目的なものを少なからず感じていたからだと思います。

それと、みんなもこの生活が辛いことを知っていたからなのではないかと思うのです。

 

真面目8割さぼり2割くらいがちょうどいいのかなと。

みんなもさぼることがあったはず。

でもそれはちゃんと周りに「あの子は真面目」という印象を与えていられればの話です。

あんまりしっかりしていない人は私なら怒られないことでもすごい怒られていた気がしましたし。

きっとこのラボ蓄生活をこなすことができれば会社でわりと仕事ができる方に入るのではないかと思います。

私はまったく社会に役立っていない人間ですがね(´◔౪◔)

 

今回はこれで終わります。

お読みいただきありがとうございます。