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【遺伝子発現】一つの遺伝子からタンパク質が合成される仕組み

 

以前の記事で、(↓)

 

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遺伝子はDNA上にある一定区間塩基配列のことで、遺伝子発現とは遺伝子に書き込まれている設計図をもとにタンパク質を合成すること、と言いました。

今回はついにその遺伝子発現がどうなっているかを書いていこうと思います。

 

 

1. DNAのプロモーター領域に転写因子が集まって開始前複合体が形成される

DNA複製と同様、遺伝子発現も原核生物と真核生物では異なります。

例にならい、今回も真核生物(ヒト)の遺伝子発現を説明していきます。

 

タンパク質合成の過程をざっくり言うと、DNAからRNAメッセンジャーRNA : mRNA)に情報がコピー(転写)され、そのコピーの情報に従いアミノ酸を合成、連結させ(トランスファーRNA : tRNA)、最後必要な糖鎖などをくっつけて完成し、そのタンパク質が必要な各所に運搬される、という感じです。

DNA複製ではDNAからDNAを合成しますが、タンパク質を作るときはDNAからRNAへコピーされます。RNAのほうがコストが低いのかしら(笑)。

 

転写が始まるときは、まずDNAのプロモーター領域(転写開始部位:TATAボックス)に、転写因子が集結し結合します。

転写因子は少なくとも TBP, TFⅡB, TFⅡE, TFⅡF, TFⅡH があると言われています。

 

  • TATAボックスは、だいたい上流の-31bp~-26bp付近にあり、TBPが結合することで転写開始部位が決まります。

 

  • TAFなど他のサブユニットが集まり、TBPに結合し TFⅡDを形成します。

 

  • TBPにTFⅡBとRNAポリメラーゼⅡが結合します。

 

  • TFⅡAとTFⅡBがTAFに結合します。

 

  • TFⅡFがRNAポリメラーゼⅡに結合し、プロモーター領域の下流RNAポリメラーゼⅡを集めます。

 

  • RNAポリメラーゼⅡにTFⅡEとTFⅡHが結合し、開始前複合体(PIC)が完成します。

 

  • TFⅡHのATP依存性ヘリカーゼ活性により、PICはオープン複合体となり、RNAポリメラーゼⅡが転写を開始しmRNA鎖を合成していきます。

 

 

2. mRNAが分解されないよう保護される

mRNAへの転写では、正確な転写終結部位が決まっていません。そのため、3’末端が均一ではなくなります。

しかし、3’末端は最終的にはエンドヌクレアーゼにより特定部位で切断されるため、転写段階では均一でなくても大丈夫なのです。

 

転写が完了したmRNAは、次のアミノ酸合成のため核外へ出ていきますが、その際に細胞質に存在するヌクレアーゼにより分解されないよう5’側にはキャップ(5’キャップ)を、3’側にはポリ(A)尾部を付加します。

 

*5’キャップの付加について

RNAトリホスファターゼにより5’のγリン酸基を除去

② キャッピング酵素によるmRNAのグアニル化でGTPから5’-5’三リン酸を架橋

③ グアニンのメチル化と、mRNAの1番目と2番目のヌクレオチドをメチル化

5’キャップのついたmRNAは、転写から延長へとスイッチが切り替わり、エロンゲーターというタンパク質がRNAポリメラーゼⅡに結合し、転写を加速させていきます。

 

 

この状態のmRNAは、発現部位(エキソン)と、発現しない部位(イントロン)が混在しているため、転写終了時には、snRNA(核内低分子RNA)によりイントロンの除去が行われ、スプライソソームによりエステル交換反応がおきエキソン同士がつながります(スプライシング)。

ちなみに、イントロンラリアット構造をしており、エキソンとイントロンの結合部位はコンセンサス配列といいます。

 

スプライシングでは、必ずしもすべてのエキソンがつながるわけではなく、必要に応じて除去されるエキソンもあるのです。

例えば、エキソンABCDとつながるところ、エキソンBも除去され、エキソンACDとつながる場合もあります。このようなスプライシングを選択的スプライシングといいます。

スプライシング自体は、基本的に他の因子により誘導されますが、mRNA自体でスプライシングを行うこともあり、これは自己スプライシングとよばれています。

 

 

5’キャップとポリ(A)尾部が付加され、スプライシングも完了したmRNAは、CBC、SRタンパク質、hnRNP、核外輸送複合体と結合し、核膜孔複合体の間を通過し、細胞質(サイトゾル)へ移動します。

そこで、翻訳開始因子(elF4G, elf4E)が結合し、CBCが外れ、翻訳が開始されます。

 

 

3. mRNA上のコドンを読み取りアミノ酸を合成・連結していく

まず、mRNAの開始コドン(AUG)上流に、40sリボソームが結合します(43s開始前複合体)。

結合したリボソームはmRNA上をスキャンし、開始コドンを見つけると48s開始前複合体を作ります。そして、elF2がGTP(翻訳時のエネルギー源)を分解すると、48s開始前複合体から因子が外れ、elF5BによるGTP加水分解で60sリボソームと結合します(80sリボソーム開始前複合体の完成)。

 

翻訳開始を指令するぺプチジルtRNAがリボソームのP部位に結合し、隣のアミノ酸と結合したtRNA(アミノアシルtRNA)がその横のA部位に結合すると、アミノ酸同士はペプチジルトランスフェラーゼによりペプチド結合され、つながります。

この際、P部位にいるペプチジルtRNAのペプチジル基が、A部位のアミノアシルtRNAのアミノアシル基に移されます(ペプチジル転移)。

 

ペプチジル転移により、アミノアシルtRNAはペプチジルtRNAとなり、P部位にいたペプチジルtRNAはE部位に移動しリボソームを離れます。

これによりコドンが一つ下流へ進みます(転位)。

この繰り返しで、ポリペプチド鎖が合成されていきます。

 

 

4. 翻訳後修飾を受け、各場所へ

真核生物の場合、終止コドンの認識はeRF1が行います。

翻訳の終了時には、終結因子がペプチジルtRNAのペプチジル基を水に転位させ、tRNAは遊離せずポリペプチド鎖だけが遊離します。

 

遊離したポリペプチド鎖は、ヘリックス構造でペプチド排出トンネルを通過し、分子シャペロンにより凝集を防いでもらったり、フォールディングの手伝いをしてもらいます。

 

開始コドン(AUG)が翻訳するメチオニン残基は除去されることが多いです。

フォールディングされ、タンパク質っぽくなってきたポリペプチド鎖は、その種類により、

ヒドロキシル化、グリコシル化、プレニル化(膜タンパク)、アシル化(膜タンパク)、ユビキチン化(分解用)、SUMO化(局在決定)などの修飾を受けます。

 

そして、リボソームに結合している小胞体(基本粗面小胞体滑面小胞体ステロイドの合成に関与)膜を通過中に、糖鎖が付加されます。

また、シス-ゴルジネットワークを介してゴルジ体へ運ばれ、新しい糖の付加がされます(糖鎖プロセシング)。

 

こうしてできあがったタンパク質は、細胞内、もしくは細胞外の行くべき場所へ輸送されていくのです。

 

長旅でしたね、今回はこれで終わります。

お読みいただきありがとうございます。

 

 

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