生命科学楽しみ隊

生命の持つ不思議や神秘に魅了されております。ここでは生きた証として残しておきたい知識を記しています。

生化学でみる消化と吸収の仕組み

 

私たちが食事をすると、口から入った食べ物たちは長旅をします。

食べ物と言っても、糖質・タンパク質・野菜など、色々あります。

一つの消化酵素が全部を消化してくれるわけではなく、それぞれに適した酵素が、適した場所で消化を担当してくれているのです。

 

今回は、食べ物が消化、吸収を経て肛門から排泄されるまでの過程を記していこうと思います。

 

 

 

咀嚼からの嚥下

口の中では、主にアミラーゼという消化酵素によりでんぷん質が分解され始めます。

アミラーゼは唾液中に含まれているため、よく噛むことにより糖の分解や吸収の効率が上がります。

 

余談ですが、口の中にはあらゆる常在菌に交じり、虫歯菌や歯周病菌が住んでいます。

特に虫歯菌は糖が大好きで、食後すぐに糖を栄養に活発になり、歯の表面のエナメル質を酸で溶かし始めます。

しかしこれは誰にでもおこることで、10分~30分ほどの間で唾液中の成分が酸を中和し、削れたエナメル質の修復を始めてくれます。

そのため、食事中はよく噛み唾液をたくさん出しておくことが大切になります。

また、エナメル質の修復が行われる前に(食べてすぐ)歯を磨くのはやめた方がいいです。

 

胃の中のこと

口の中で咀嚼され、ある程度小さくなった食べ物たちは、嚥下により食道を通過し胃に到達します。

私たちが食べるものは、衛生管理がしっかりなされたものですが、無菌ではないのです。

どんなものにも必ず常在菌が存在し、私たちは食べると同時にそれを体内に入れています。

しかし、ほとんどの場合は何の問題もありませんよね。

それは、胃の中でしっかり殺菌されているからです。

 

胃では、食べ物が入ってきたことを感知すると、胃酸という強力な酸が分泌されます。

強い酸というのはそれだけで危険で、例えば濃硫酸や塩酸をかけられて火傷を負うなどの事件がありましたが、皮膚や細胞にとって強酸は毒で、種類によってはプラスチックなどもボロボロになってしまうくらいのものです。

 

ゲップとかで胃酸が逆流した時、のどが熱くなりますが、あれが胃酸の怖さです。

頻繁に胃酸が逆流しているようだと、食道が胃酸でただれてしまいます。

 

胃の中は胃粘膜により自分が胃酸で傷つかないような特殊加工がされているので大丈夫ですが、入ってくる食べ物は、だいたい胃酸でぐしゃぐしゃになり、口の中の時より細かくなります。殆どの場合、菌も殺菌されます。(腐った食材や感染性ウイルスなどはまた別の話)

さらに、胃では主にペプシンという消化酵素が働き、タンパク質をぶつぶつ切ってペプチドに分解していきます。

 

だいたいのものは、そのまま小腸に流し込まれますが、アルコールは、胃でも一部吸収されます。

吸収されたアルコールは肝臓に運ばれ、アルコールデヒドロゲナーゼと、アセトアルデヒドヒドロゲナーゼにより、アセトアルデヒドと酢酸に代謝されます。

 

 

小腸でどんどん吸収されていく

主に「消化」という言葉は胃の働きを想像している方が多いと思いますが、胃で消化された糖質やタンパク質を、毛細血管から吸収できるよう細かくする最後の仕事をしているのは小腸です。

胃は強い酸性でしたが、小腸は胃酸がそのまま流れてくるとやられてしまうので、胃酸を中和できるようになっています。(主に胆汁酸により)

 

小腸は上から、十二指腸、空腸、回腸と分けられ、十二指腸では肝臓から胆汁酸が、膵臓から膵液が流れ込んでいます。

脂肪はここで膵液に含まれるリパーゼという消化酵素により脂肪酸グリセリンに分解され、胆汁酸により乳化されます。

分解された脂肪や、ビタミン、鉄、カルシウムなどはそのまま十二指腸の毛細血管から血液中に吸収されていきます。

 

また、膵液にはアミラーゼやトリプシン(ペプチド結合を壊す消化酵素)が含まれ、糖は単糖(これ以上分解できない大きさ)まで、タンパク質(ペプチド)はアミノ酸まで分解されます。

アミノ酸まで分解されないまま吸収されるものも多いとかなんとか)

そして、単糖やアミノ酸は空腸の毛細血管から血液中へ吸収されます。

回腸ではビタミンB12などが吸収されます。

 

小腸では次に行く道が分岐しています。

毛細血管から血液中へ吸収されていったものたちは、そのほとんどが肝臓へいきます。

吸収されなかったものは、そのまま胆汁酸と一緒に大腸へ流れ込みます。

 

 

肝臓は忙しい

いや、全身の臓器はどこも平等に忙しいです。

働きを知れば知るほど、私たちを生かしてくれてありがとうという気持ちが湧いてきます。

 

単糖のその後

肝臓へ流れ着いた単糖(主にブドウ糖)は、全身の細胞のエネルギー源になるので、必要量はそのまま血液に流れ全身に運ばれていきます。

それ以外は、いったん肝臓でグリコーゲンという形で貯蓄されます。

貯蓄と言っても、グリコーゲンは24時間ほどで枯渇されます。肝臓で蓄積され続けるのは、ブドウ糖ではなく果糖ですね。

 

グリコーゲンは肝臓以外にも筋肉でも貯蓄されていて、ブドウ糖(主にご飯から)の摂取が足りなくなり、肝臓のグリコーゲンがなくなると、筋肉のグリコーゲンが分解され全身のエネルギーとして使われます。

 

アミノ酸のその後

アミノ酸は、肝臓でそのままタンパク質の再合成の一部として使われるか、非必須アミノ酸として全身の分子の構成成分として使われます。

 

脂肪のその後

脂肪酸は、肝臓でアルブミンという血漿タンパク質と結合し、全身の各臓器に運ばれ利用されます。

グリセリンは、アセチルCoAを経て、細胞内の解糖系へ入ります。

 

また、脂肪酸グリセリンの一部は、再合成されてトリグリセリド(中性脂肪)になります。

トリグリセリドは水に溶けないため、親水基を持つアポリポタンパク質やリン脂質、コレステロールなどと結合し、リポタンパク質になります。

 

肝臓で再合成された中性脂肪は、VLDLにより全身に運ばれ、必要な場所に供給されます。

また、コレステロールはLDLにより全身に運ばれ、供給されなかった分は、HDLによって肝臓に回収されてきます。

 

LDLが悪玉、HDLが善玉、という謎な定義が出回ってしまっていますが、本来はどちらも必要なもので、LDLが多いからと言って、必ずしも病気になるとは限りません。

どちらかと言えば、LDLの酸化され具合がカギなのではないかと思います。

(酸化されたLDLが多いほど病気になるリスクが上がる)

 

 

水分の吸収は大腸で

吸収された栄養たちが肝臓で検閲されたのち全身に送られているその一方、大腸ではゴミ出し作業が進みます。

例えば食物繊維のように、小腸で消化吸収されなかったものは大腸へ流れます。

大腸には腸内フローラと呼ばれるくらい無数の腸内細菌が棲みついていて、私たちではどうにもできなかったものの消化を彼らが助けてくれています。

 

特に食物繊維の分解は細菌のお得意です。

ガスが出るのは、細菌がこういったものを分解してくれている証拠で、分解の過程でガスが出ているのです。

細菌たちは、ただごみ処理をしてくれているだけでなく、免疫に必要な分子を生成したり、ホルモン産生に必要な分子を生成したりして、私たちの生命維持に貢献してくれているのです。

ただし、その人に合った常在菌バランスが保たれていればの話ですが。

 

抗生物質や抗菌薬、偏食などにより腸内細菌のバランスは大きく乱れてしまうため、私たちも彼らにいいものを選んで摂る必要がありますね。

 

それと、大腸では水分の多くが吸収されています。

下痢では吸収された水が、何らかの刺激で腸に戻るため、水分が多くなるのです。

 

小腸は三つでしたが、大腸は、盲腸、上行結腸、横行結腸、下行結腸、S上結腸、直腸、と長く、蠕動運動により少しずつ腸内の老廃物(細菌の死骸や不要物など)が便となり流れ、肛門から排出されるのです。

蠕動運動は、胆汁酸やカリウムなどの働きにより促進されます。

 

 

ふう、長かったですね。

一日三食、それ以上食事をしている方もいると思います。

そのたび、私たちの体内ではこんな大冒険が始まっているわけです。ワクワクしちゃいますね。

それでは今回はこの辺りで終わります。

お読みいただきありがとうございます。

 

 

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